10月に入り、モータースポーツシーズンも終わりが近づいてきた。この時期になるとシリーズ戦も徐々に閉幕していき、競技で使われた車両が売却に出される。つまり、中古のレーシングカーを購入する絶好の時期ということだ。
これからレースを始めようと思っている人にとっても、今出ているカテゴリーから別のカテゴリーへステップアップを考えている人にとっても、この時期の出物は逃したくない。この記事では、レーシングカー***特にフォーミュラカー***はどうやって購入できるのかを解説する。レーシングカーの購入を考えている人は、参考にしてほしい。
この記事の目次(クリックでジャンプ)
結論|フォーミュラカーは“思っているより簡単に買える”
フォーミュラカーというと「特別な人しか買えない」「チーム専用の車」という印象を持たれがちだが、実際には一般のモータースポーツファンでも購入できる。中古市場ではシーズン終盤になると出物が増え、状態の良い個体を比較的安く手に入れられる時期でもある。
購入方法は大きく分けて「レーシングチーム経由」と「個人売買・オークションサイト経由」の2パターン。どちらも適切な確認さえすれば安心して取引が可能だ。
さらに、保管場所やメンテナンスの問題も、レーシングチームのガレージを活用すればハードルは高くない。つまり、フォーミュラカーは決して遠い存在ではなく、“正しいルートを知っていれば誰でも手に入れられる”ということだ。
筆者のフォーミュラカー保有歴
プロフィール等でも少し触れているが、筆者はこれまでに2台のフォーミュラカーを購入したことがある。まずはこの2台の購入経緯を紹介しようと思う。
FJ1600:東京R&D FV2K

1台目に購入したのは、東京R&D製の「FV2K」というFJ1600カテゴリーの車両だ。当時はまだJAF公認レースに出場しておらず、レースに出ている知り合いがお世話になっているレーシングガレージから購入した。約3年ほど所有してレースに出場していたが、FJ1600のカテゴリーが消滅してしまったため、売却した。売却先は、独立してレーシングガレージを立ち上げたメカニックの方である。
スーパーFJ:WEST 07J

2台目は、ウエストレーシングカーズ製の「WEST 07J」というスーパーFJカテゴリーの車両だ。同じガレージでレースに出場していた先輩ドライバーから購入した。こちらは約2年ほどレースに出場していたが、成績が振るわなかったことと、メンテナンスにかける時間の確保が難しくなったため、売却した。売却先は、こちらも新たにレーシングガレージを立ち上げたメカニックの方である。
フォーミュラカーを所有している人ってどんな人?
レースの世界に詳しくない方は、「フォーミュラカーってどんな人が所有しているのか?」と、そこから疑問を持つと思う。まずはその点から説明しよう。フォーミュラカーの所有者は、大きく下記の2パターンに分けられる。
レーシングチームが所有
ひとつ目は、レーシングチーム(レーシングガレージと呼ぶこともある)が所有しているパターン。この場合は、チームがドライバーに貸し出して乗ってもらう、チームがドライバーを雇って乗ってもらう、あるいはチームオーナー自身がドライバーの場合はオーナーが乗るなど、さまざまな運用がされている。
個人が所有
ふたつ目は、個人が所有しているパターン。レーシングカーの所有権は個人が持っており、レーシングガレージにお金を払って保管やメンテナンスを依頼するといった運用をしている場合が多い。もちろん、完全に個人で保管しメンテナンスを行っている人もいる。
埃をかぶったフォーミュラカーは山ほど眠っている
普段レースの世界にいない人は知る由もないかもしれないが、フォーミュラカーなどのレーシングカーは、実はガレージの奥で埃をかぶって眠っていることが少なくない。特に最前線で戦えなくなったり、レギュレーションの都合で使えなくなったり、カテゴリーが消滅したフォーミュラカーは、言い方は悪いが、ほぼ粗大ゴミのような存在となっている。
レーシングチームが所有している車両であれば、部品取りにされたり、売却されたり、処分されたりすることも可能だが、個人が所有し、レーシングチームに保管を委託している車両に関しては、勝手に部品を取ったり、売ったり、処分したりはできない。所有者としても売却先を探すのが面倒で、保管料だけで維持できるならいいかという具合に、延々と使われないフォーミュラカーがカバーをかけられたまま眠っている。
つまり、フォーミュラカーは決して“貴重なクルマ”というわけではない、ということを知ってもらいたい。
オークションサイトからの購入はあり?なし?
SNSなどを見ていると、たまにフォーミュラカーをオークションサイトで見つけた、という投稿が流れてくる。これらのオークションサイト経由でのフォーミュラカー購入が「あり」か「なし」かで答えると、基本的には“あり”だ。
最初に説明した通り、フォーミュラカーの所有者は「チーム所有」か「個人所有」のどちらかとなる。「チーム所有」の場合は、ほぼお店から車両を購入するのと変わりはない。「個人所有」の場合も、ほとんどのケースではメンテナンスを委託しているレーシングチームがあるはずなので、購入後の保管場所やメンテナンスで困ることはないだろう。
注意が必要なのは、完全に「個人所有・個人保管・個人メンテナンス」の車両だ。この場合は、購入後の運搬や保管、メンテナンスに大きな課題があるため、最初の1台目として選ぶのは避けたほうがいい。見分ける方法としては、車両をメンテナンスしているチーム(ガレージ)を出品者にストレートに尋ねてみよう。それだけでリスクを回避できる。
掘り出し物を見つけるならサーキットで聞くのが一番
オークションサイトでお目当ての車両を見つけるには、運が必要だ。手っ取り早く目当ての車両を探すなら、サーキットに行って直接聞いてみるのが早い。レース日でも練習走行日でも構わないので、パドックやピットにいるメカニックの人に直接聞いてみよう。
おそらく最初は驚かれると思うが、そのチームでフォーミュラカーを扱っていれば教えてくれるし、扱っていなければ、どのチームの誰に聞けば詳しいかを教えてくれるはずだ。
フォーミュラカーの保管場所は?
フォーミュラカーを保管するには、屋根付きのガレージが必須となる。屋根付きのガレージが自宅にない人も、心配する必要はない。フォーミュラカーは、レーシングチーム所有のガレージや倉庫に保管するのが基本だ。ごく稀に自宅ガレージで整備している人もいるが、レーシングチームで保管している人が大多数である。保管料金は立地や待遇にもよるが、年間20〜30万円程度で保管してくれる場所が多いはずだ。フォーミュラカーを所有する際に最初に気になるであろう「保管場所」は、実はそれほど難しい問題ではない。
メンテナンスは誰がやる?
むしろ難しいのは、メンテナンスを誰が行うかという点だ。メンテナンスに関しては、すべてレーシングチーム所属のプロメカニックに任せる場合、自分で整備する場合、そして簡単な整備は自分で行い、重整備はプロに依頼する場合の3パターンがある。
では、フォーミュラカーを誰でも整備できるのかというと、簡単なメンテナンス(オイル交換やエア抜きなど)であれば、整備の基礎知識があれば誰でも可能だ。少し難しい整備や修理に関しても、大きなラジコン感覚で行える部分もあり、チームの人に教わりながらならできなくもない。
ただし、一番どうにもならないのが“時間”だ。先に紹介した通り、フォーミュラカーはチームのガレージに保管されているため、いつでも気軽にメンテナンスできるわけではない。週に1回メンテナンスに行ければ多い方であり、走行が近づくとその頻度では時間が足りないと感じることも多い。さらに、移動にかかる交通費も無視できないコストとなる。これらを天秤にかけて、プロに依頼するか自分で行うかを判断してもらいたい。
いま狙い目のフォーミュラカー
最後に、いま狙い目のフォーミュラマシンを紹介しておこう。
VITA(旧エンジン仕様)

一番おすすめしたいのは、VITAの旧エンジン仕様と呼ばれる車両だ。VITAそのものが、ハコ車とフォーミュラの中間的な立ち位置にあり、これまでフォーミュラに乗ったことがない人でも扱いやすい車両に仕上がっている。そのVITAの旧エンジン(NCP13)仕様は、レースによっては「出場できない」または「戦闘力がない」ため、ほとんど使用されていない。中古車の価格も新エンジン(NCP131)仕様と比べると50〜100万円ほど安い。ホビー用途として購入するも良し、一部のサーキットではレースに出ることもできるし、100万円そこそこで新エンジンに換装することも可能だ。購入後の選択肢も多く、おすすめの車両である。
スーパーFJ

2026年から、スーパーFJは「FJ1500」という新しいカテゴリーに移行することが発表されている。とはいえ、FJ1600からスーパーFJへの完全移行にも3〜4年ほどかかっていたことを考えると、今回もスーパーFJのレースは少なくとも2年、長ければ4年は開催されると筆者は予想している。新カテゴリーへの移行期間は、旧カテゴリーのマシン価格が一気に下がるため、まさに狙い目である。2年間だけと割り切ってフォーミュラに挑戦するには、絶好のチャンスだ。
まとめ|フォーミュラカー購入は特別なことではない
フォーミュラカーの世界は一見ハードルが高そうに見えるが、実際には購入ルート・保管・整備環境のどれもが整っており、思っているよりずっと身近な存在である。レーシングチームの協力を得ながら少しずつ学んでいけば、誰でも安全にフォーミュラカーライフを始められる。
今の時期は中古車の流通量も増えるタイミング。とくに旧エンジン仕様のVITAや、移行期を迎えるスーパーFJなどは絶好の狙い目だ。フォーミュラカーを所有することは、ただの“夢”ではなく、現実的な第一歩を踏み出せる選択肢のひとつである。
コメント