「最近、サーキットへの苦情が増えている」という話をよく耳にするようになってきた。実際に近隣住民とのトラブルが原因で、走行時間が短縮されたり、最悪の場合はサーキットそのものが存続の危機に追い込まれるケースが全国で起きている。
しかし、この問題の本当の原因は、サーキットの中を走る車の音そのものではない。真に深刻なのは、サーキットの『外』、つまり一般の公道における改造車のマナー違反や、それを『個人のモラル』に丸投げせざるをえない現在の仕組みにある。
なぜ、私たちが大好きな走行会がなくなってしまうかもしれないのか。サーキットのルールの現実と、私たちが気づいていない「一般道でのマナー」から、その本当の理由をわかりやすく解説する。
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結論|今のままでは走行会文化は長く続かない
今の日本のモータースポーツを取り巻く状況を見ると、今のルーズなやり方のままでは、走行会という文化をこの先ずっと続けていくのは難しいと言わざるを得ない。その理由は、問題の場所がサーキットの中だけでなく、外の一般道にまで広がっているからだ。
問題は「サーキット内の音」だけではなく「公道での騒音」
多くのモータースポーツファンや走行会の参加者は、「サーキットは大音量を出して走る場所なんだから、多少のうるささは許してもらえるはずだ」と思いがちだ。でも、近所に住む人たちが本当に耐えかねて、役所や警察、サーキットに苦情を入れる一番のきっかけは、コース上を走っている時の音だけではない。
最も問題になっているのは、サーキットの門に入る前や、イベントが終わって帰る時の「公道(一般道)での騒音」だろう。特に、サーキットが開く前の早朝の時間帯に、近くの住宅街や生活道路を大きな音がするマフラーをつけた車が通り抜けたり、エンジンをかけたまま停まっていたりする行為が、住民の静かな生活を大きく脅かしている。
音量規制だけでは解決できない
現在、たくさんのサーキットやイベント主催者が、走る車に対して厳しい音量のルールを決めている。しかし、いくらサーキットの中で音量を厳しく縛ったところで、この騒音問題は絶対に解決しない。
なぜなら、本当のルール違反はサーキットの測定器の上ではなく、測定器のない「公道」や、イベント運営の手が届かない「早朝の移動時」に行われているからだ。
サーキット内の数値だけをいくら厳しくしても、行き帰り公道でのモラルを個人頼みで放置している今の仕組みのままでは、いつ住民の怒りが爆発して走行会自体が中止に追い込まれてもおかしくない。
なぜサーキットには音量規制があるのか
そもそも、サーキットという専用のコースなのに、なぜこれほど厳しい音量のルールがあるのだろうか。それは単に「近所迷惑だから」という感情論だけではなく、健康への影響や、地域社会と一緒に生きていくためのちゃんとした理由がある。
爆音は健康被害につながる
耳をつんざくような「爆音」は、人間の体に直接悪い影響を与える。サーキットで出る100dB(デシベル)を超えるような甲高い排気音は、近くで長い時間聞き続けると、一時的、あるいはずっと耳が聞こえにくくなる(難聴になる)危険がある。
ドライバー自身はヘルメットや耳栓で守られているかもしれないが、ピットで作業するメカニックや、コースの横で見ている観客、スタッフ、そして周りに住む人たちの耳にかかる負担はとても大きい。音量を制限することは、モータースポーツに関わるすべての人の体を守るための、最低限の安全対策なのだ。
近隣住民は毎日の生活の中で音を聞いている
サーキットに走りに行く人にとって、走行会やレースは月に数回、あるいは年に数回だけ訪れる「特別な日(非日常)」だ。だから、「今日くらいは思い切り音を出して楽しみたい」という気持ちになりやすい。
だけど、サーキットの周りに暮らす人たちにとっては、そこは毎日を過ごす「ふつうの生活の場(日常)」だ。土日や祝日になるたびに、朝から夕方までずっと排気音が響いてくる環境は、精神的なストレス以外のなにものでもない。サーキットがこれからもその場所で続いていくためには、特別な日を楽しむ側が、日常を守る側の立場になって、地域の人たちと仲良く共存していく姿勢が絶対に欠かせない。
配慮が必要なのはサーキットの中だけではない
サーキットの敷地を一歩外に出れば、そこはすべての一般車が同じルールを守らなければいけない公道だ。いくらサーキットの中でジェントルマンに振る舞い、音量のルールをクリアしていたとしても、帰りの道で爆音を響かせたり、危険な追い越しをしたりすれば、それだけで「サーキット帰りの車はマナーが悪い」と言われてしまう。
「家を出てから、無事に家に帰るまでが走行会」という意識を参加者全員が持たなければ、地域の人たちから理解してもらうことは絶対にできない。
音量規制には複数の基準が存在する
サーキットや公道の音量ルールをややこしくしている原因の一つに、国が定める法律や、モータースポーツの決まりなど、色々な基準があってそれぞれ測り方が違うという点がある。主な基準を整理したのが下の表だ。
| 規則・基準 | 対象車両 | 回転数条件 | 測定距離 | 規定値 |
| 道路運送車両法 | ナンバー付き登録車両 | 最大回転数の75% | 0.5m | 96dB |
| JAF競技車両規定 | 競技専用車両 | 最大回転数の75% | 3m | 120dB |
| JAF競技車両規定 | ナンバー付き登録車両 | 最大回転数の75% | 0.5m | 96dB |
| 筑波サーキット測定A | 競技専用車両 | 最大回転数の75% | 0.5m | 115dB |
| 筑波サーキット測定B | 競技専用車両 | コース全開走行時 | 10m | 110dB |
道路運送車両法の音量規制
日本の公道を走るナンバー付きの車に適用されるのが「道路運送車両法」という法律だ。この法律の車検基準では、マフラーの出口から45度の角度、0.5m離れた場所にマイクを置いて、エンジンの最大回転数の75%まで回して音を測る。この時の決まりは原則「96dB以下」となっている。公道を走る以上、この数値を1dBでも超えたら違法改造車になってしまう。
ここで勘違いしてはいけないのが、「96dBなら静かだ」というわけでは決してないという点だ。実は96dBという音量は、すぐ近くで犬が激しく吠え続けたり、工場のうるさい機械の真横にいたりするのと同じレベルの音である。日常の感覚からすれば、96dBでも十分にうるさい「爆音」なのだ。法律の基準値ギリギリだからといって、住宅街で出していい音では決してないことを忘れてはならない。
JAF競技規則の音量規定
一方で、モータースポーツをまとめているJAF(日本自動車連盟)が定めるルールは、公道の法律とは違う基準を持っている。ナンバーのないレース専用車(レーシングカーなど)に対する規定では、マイクを3mと遠くに離して測る代わりに、120dBまで許されている。また、ナンバーが付いたまま出るレースについては、公道と同じ「0.5mの距離で96dB以下」と定めている。
サーキット独自の音量規定
さらに、サーキットが独自に設けているローカルルールもある。騒音対策にとても厳しいことで有名な「筑波サーキット」では、車を止めた状態で測る「測定A(0.5mの距離で115dB以下)」だけでなく、コースを全開で走っているところを10m離れた場所から測る「測定B(110dB以下)」という、独自の2段階のチェック体制をとっている。
測定方法が違うため単純比較はできない
これらのルールは、エンジンの回転数、マイクまでの距離、測る場所(止まっているか走っているか)がバラバラなので、デシベルの数値をそのまま比べることはできない。音は距離が離れるほど小さくなる性質があるため、測る距離が遠いものほど、基準となる数値の見ためは小さくなる。
この違いをイメージしやすくするために、もしすべての基準を「最大回転数75%、距離0.5m」という同じ条件に計算しなおした場合の、参考用の数値をまとめたのが以下の表だ。
| 順位 | 規則 | 換算値(参考) |
| ① | JAF競技車両規定(競技専用車両) | 約135dB |
| ② | 筑波サーキット測定B | 約131dB |
| ③ | 筑波サーキット測定A | 115dB |
| ④ | 道路運送車両法 | 96dB |
※この表の換算値は、音の強さの違いをイメージしやすくするための参考値であり、実際の環境によって変わる。
この表を見ると、一番下の道路運送車両法(96dB)に対して、JAFのレース専用車に許されている音(約135dB)や、筑波の走行中データ(約131dB)がいかに桁違いの激しい爆音であるかがよくわかる。先ほど「96dBでも十分うるさい」と説明したが、レース専用車はそれを遥かに超える、耳を突き刺すような特別な音を出すことが、限られたサーキットの中だけで許されているのだ。
実際の音量チェックはどのように行われているのか
では、実際の走行会やイベントで、これらの音量チェックがどれくらいきっちり行われているのだろうか。結論から言うと、そのチェックはごく一部だけで、見逃されていることが多い。
競技では車検時に測定される場合がある
JAFが公認する正式なレースなどでは、走る前に受ける「公式車検」の中で音量を測ることがある。だけど、これもすべての大会で全員にしっかりと音量計を当てて測るわけではない。また、JAF非公認の気軽な走行会や草レースでは、主催者側に測定器がなかったり、詳しく測れるスタッフがいなかったりして、事前の音量チェックが全く行われないことも珍しくない。
筑波サーキットは走行中も監視している
音量のルールに対して、一番厳しくしっかりチェックしているのが筑波サーキットだ。筑波では、コースの横(コントロールライン付近など)に測定器が置いてあり、走っているすべての車の音量をリアルタイムで見張っている。
もし基準である110dB(測定B)を超える車が見つかった場合、タワーからその車に対して「黒旗(ピットに入りなさいというサイン)」が出される。黒旗を出された車はすぐにピットに入らなければならず、音を小さくする対策をして合格しない限り、もうコースを走ることはできなくなる。
すべての車両を測定できない理由
ただ、筑波のような設備があるサーキットは珍しく、ほとんどの地方のサーキットやミニサーキットでは、このようなリアルタイムの監視システムを入れるのは難しい。設備を買うお金やメンテナンスのコスト、限られた時間の中で全員をチェックする大変さなどが壁になっているからだ。
そのため、多くの走行会では「参加者はちゃんとルールを守ってくれているはずだ」という信頼(性善説)に頼るしかなく、これがチェックの限界になっている。
本当に問題なのは「改造車」が集団で来ること
ここまでサーキットの中の音の話をしてきたけれど、最初にも言った通り、近所の人たちと一番大きなトラブルになっているのは、サーキットの外、つまり「一般の公道」での出来事だ。
サーキット内より公道のほうが深刻
防音壁や広い敷地に囲まれたサーキットの中で、一時的にレーシングカーが数台走る音よりも、音を遮るものが何もない普通の住宅街や通学路を、マフラーなどを変えた「改造車」が何十台もの集団になって連なって走る方が、住民にとってはるかに大きな迷惑になる。
いくら「合法的にモータースポーツを楽しんでいる」と言い訳をしたところで、生活道路を大きな音を立てて走る改造車の集団は、一般の人から見れば「暴走族の集まり」と同じようにしか見えない。この厳しい現実を、参加するドライバーはしっかりと自覚しなければいけない。
早朝5〜6時の住宅街を考えてみる
多くの走行会は、朝6時くらいのゲートオープンや受付開始に合わせてスケジュールが組まれている。そのため、遠くから来る参加者は、早朝の5時や6時といった早い時間帯にサーキットの近くに到着することになる。
まだ街全体が静まり返っているその時間帯に、住宅街の狭い道路を大きな音がする車が通り抜ける。あるいは、近くのコンビニの駐車場に何十台も集まって、エンジンをかけたままおしゃべりをしたり、暖機運転だからと空ぶかしをしたりする。そんなことをされたら、近隣の人が怒って警察やサーキットに通報するのは当たり前だ。
住民目線で考えることが重要
モータースポーツが好きな人の中には、「ここは昔からあるサーキットなんだから、後から近くに住み始めた人が文句を言うのはおかしい」と言う人が時々いる。だけど、土地の歴史がどうであれ、今の世の中で「自分の趣味のうるさい音を、他人に我慢させる権利」なんて誰にもない。住民の立場になって、「もし自分が休日の朝早くにこの音で起こされたらどう思うか」を考える配慮が足りないことこそが、この問題をここまで悪化させてしまった一番の原因だ。
さらに問題なのは黙認してしまうイベントもあること
この騒音問題をさらに難しくしているのが、一部の走行会の主催者やサーキット側が、ルール違反の車やマナーの悪い参加者を「見て見ぬ振り」をして許してしまっている現実があることだ。
施設側がすべてを取り締まるのは難しい
サーキットを運営する会社としても、ビジネスとしてコースを貸し出している以上、あまり厳しくチェックして参加者を追い出してしまうと、お客さんが来なくなって経営ができなくなるという悩みを抱えている。
結果として、明らかにうるさい車両(表の①や②がNG)には注意するものの、ナンバー付きの車両(表の③や④がNG)の公道でのマナーや違法改造の中身までチェックすることは、リソースが足りないこともあって、実質的にスルーしてしまっているのが今の実情だろう。
「筑波を走れたからOK」という考えは危険
参加する側にも大きな勘違いがある。それは、「筑波サーキットの音量規定をクリアしているのだから、公道を走っても問題ない」と考えてしまうことだ。
実際には、公道を走るナンバー付き車両は道路運送車両法の保安基準を満たしていなければならない。車検時だけ純正マフラーや車検対応マフラーに戻して検査を通し、その後、筑波サーキットの規定内には収まるものの、公道の基準を満たさないマフラーへ交換してサーキットへ向かうことは可能だ。
しかし、その状態で公道を走れば、サーキットの規定を守っていたとしても、道路運送車両法に適合しているとは言えない。サーキットの音量規定は「サーキットを走るためのルール」であり、公道を走るための許可ではない。
筑波サーキットを走れたことと、公道を合法的に走れることは全く別の話である。この違いを理解しないまま走行会へ参加する人が増えれば、サーキット周辺での騒音問題や違法改造車への批判は今後もなくならないだろう。
このままでは開催できない走行会が増えていく
サーキットの周りでのマナー違反や違法な車を放置したままだと、そのうち自治体や警察が本格的に動き出し、サーキット運営会社は「営業を止めてください」と言われたり、使い方のルールを厳しくされることになる。
そうなると、トラブルを避けるために、サーキット側は「マナーの悪い主催団体」や「対策がユルい走行会」に対して、コースを貸してくれなくなる。実際、すでに一部のサーキットでは、事前に「騒音対策をします」という誓約書を出させたり、近所から苦情が入った時点でその日のイベントを即座に中止にするという、厳しいペナルティが始まりつつある。
これから走行会に参加する人へ伝えたいこと
私たちが大好きなモータースポーツ、そして愛車を思い切り走らせる場所である「走行会文化」をこれ以上なくさないために、これから走行会に行くすべての人に、今すぐやってほしい大切な行動がある。
道路運送車両法を必ず守る
ナンバー付きの車で自分で運転してサーキットに行く場合、大前提として公道の法律(保安基準)を完全にクリアした状態でなければいけない。
「車検の時だけ対応のマフラーをつければ大丈夫」「行き帰りだけ静かに走ればバレないだろう」という誤魔化しは、今すぐやめるべきだ。公道を走っている瞬間から、あなたの車は周りのみんなに見られている。「これくらい大丈夫」と違法な状態のまま走ることは、走行会文化の寿命を自分で縮めているのと同じことだ。
サーキットへは集団で行かない
走行会に一緒に出る仲間同士で、高速道路のサービスエリアやサーキット近くのコンビニに集まって、そこから何台も連なって走る(トレイン走行・集団走行)のはやめよう。
どれだけ静かに走っているつもりでも、カスタムされた車が5台も10台も連なって走る姿は、一般の人から見ると威圧感があり、とても不快に感じるものだ。
- サーキットへは、原則としてみんなバラバラに、1台ずつ静かに向かう。
- 朝早い時間帯にコンビニの駐車場に集まるのは避ける。
- 住宅街や民家の近くを通る時は、高いギアを使ってエンジンの回転数を低く抑え、絶対に無駄な空ぶかしをしない。
これらの配慮を徹底することが必要だ。
マナーが走行会文化を守る
走行会文化の未来を決めるのは、マフラーから出る音の数字(デシベル)だけではない。「あのイベントに参加する人たちは、みんな街中では静かに走り、コンビニでもエンジンを切ってマナー良くしているな」という、地域の人たちからの信頼をもらうことこそが、何よりも強い防音壁になる。
周りへの思いやりや敬意がない趣味は、どれだけ歴史があっても、社会から簡単に締め出されてしまう。その危機感を、すべてのドライバーが持たなければいけない。
まとめ|走行会文化を守れるのは参加者しかいない
サーキットをめぐる騒音問題の一番の原因は、単に「音の数字が大きいこと」ではなく、「公道でのマナー違反を、個人のモラル頼みで見逃してきた仕組みの甘さ」にある。
- サーキットの騒音苦情の一番の原因は、サーキットの中だけではなく公道でのマナー不足である。
- 公道の法律とサーキット独自の音量ルールは全く別物であり、サーキットを走れたからといって公道で合法というわけではない。また、公道基準の96dBも日常生活の感覚からすれば十分にうるさい爆音である。
- 参加者のモラルに頼った今のやり方ではトラブルを防ぎきれず、このままでは開催できなくなる走行会が増えていく。
この悪い流れを断ち切り、大好きなモータースポーツや走行会文化を次の世代へ残していくために、私たちに残された時間は多くない。
走行会に参加する時は、一人ひとりが「自分はモータースポーツ界全体の代表として、周りの社会から見られているんだ」という強い責任を持ち、公道でのマナーを絶対に守ること。その一人ひとりの行動の積み重ねだけが、私たちの走る場所を未来に残す唯一の方法だ。

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