アンダーウエアとは?
モータースポーツにおける「アンダーウエア」とは、レーシングスーツの下に着用する耐火性のあるインナーウェアのことである。素材には難燃繊維(ノーメックスなど)が使用され、万が一の火災時に、肌に直接触れる部分から火傷を防ぐ重要な役割を担う。
多くのカテゴリーでFIA公認のアンダーウエア着用が義務づけられており、スーツやヘルメットと同様に、安全装備のひとつとして位置付けられている。
なぜアンダーウエアが必要なのか?
レーシングスーツ自体も耐火性の高い素材で作られているが、火災発生時にはスーツの内側まで炎や熱気が侵入する可能性がある。その際、素肌が露出していれば深刻な火傷を負う危険性がある。
アンダーウエアは、こうしたリスクを軽減するため、頭から足首までを覆う全身用の装備として着用が推奨されている。これにより、ドライバーが安全に脱出できる数秒間を確保できる可能性が高まり、命を守る最後の砦となる。
アンダーウエアの主な種類と構成
FIA公認のアンダーウエアは、主に以下のアイテムで構成される。
- アンダーシャツ:長袖タイプが基本。胸元から腕までしっかりと覆う。
- アンダーパンツ:ロングタイプの下半身用インナーで、太ももから足首までを保護する。
- バラクラバ(フード):頭部を保護するマスク型のインナー。口元には通気用の開口部があり、同時にヘルメットの内装を汗や皮脂から守る役割も果たす。
- ソックス:足首までカバーする耐火性靴下で、シューズ内の安全性を高める。
これらすべてのアイテムには、FIAの認証ラベル(ホログラム付き)が縫い込まれている必要があり、イベント時の車検で確認される。
FIA規格:FIA 8856-2018とそれ以前の違い
現在、FIAが定めるアンダーウエアの最新規格は「FIA 8856-2018」であり、国際競技ではこの規格に準拠した製品の使用が義務づけられている。旧規格である「FIA 8856-2000」製品は、2029年以降の使用が不可となる予定である。
なお、日本国内の地方選手権やクラブマンレベルの競技では、現時点で旧規格が使用できるケースもある。参加予定の大会の規則書や主催者発表を必ず確認し、自分に必要な規格を見極めることが大切である。
アンダーウエアの着用が義務づけられるケース
- JAF公認レース・ラリー:カテゴリーや大会規定により義務化されている。
- FIA国際競技:FIA 8856-2018準拠の製品着用が義務。
- 地方戦(ジムカーナ・ダートトライアル・サーキットトライアルなど):クラスにより義務または推奨される。
選び方のポイント
- FIA認証ラベルの有無:必ずタグを確認し、公認品を選ぶこと。
- フィット感と伸縮性:長時間の着用に耐える快適さが求められる。窮屈すぎると走行中の集中力を妨げる原因にもなり得る。
- 通気性と吸汗性:夏場の耐久レースやラリーでは、熱中症対策としても重要な要素となる。
- 上下セットで揃える:全身を確実に保護するため、単品ではなくセットでの装備が理想的。
- サイズの適合性:大きすぎても小さすぎても安全性に影響するため、試着できる店舗やレビューを参考に選ぶとよい。
- 価格の目安:上下セット+バラクラバの構成で、2万5千円〜4万円程度が一般的。最新規格品はやや高額になりやすい。
メンテナンスと注意点
アンダーウエアの耐火性能は、洗濯方法や使用状況により徐々に低下していくため、メンテナンスにも注意が必要である。
- 洗濯機の使用は可能だが、必ずネットに入れて優しく洗うこと。
- 柔軟剤や漂白剤は繊維を傷めるため使用不可。
- 乾燥機は避け、陰干しを徹底すること。
- 洗濯回数が多い場合は、難燃性の劣化を考慮し、定期的な買い替えも検討すること。
まとめ
アンダーウエアは「見えない安全装備」でありながら、火災や緊急時に命を守る極めて重要な存在である。見た目や価格にとらわれず、正しい規格の製品を選び、正しく着用・管理することが、すべてのドライバーに求められている。
モータースポーツを安全に、そして長く楽しむためには、外からは見えないこうした装備にも意識を向けていきたいものである。
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