なにやら最近、四輪用のカーボンヘルメットが安くなっているらしい。先日見に行ったロードスター・パーティレースでも、応援しているドライバーの1人がカーボン製のヘルメットを使っていた。SNSを見ていても次のヘルメットにはカーボンにしたいという投稿も見ることが増えた。私もクルマ好きの端くれなので、カーボンという材料には惹かれるのだが、カーボンのヘルメットにどんな価値(性能)があるのかは具体的には理解できていなかった。
私が使っているヘルメットも製造年からちょうど7年が経過したので、使えるのは残り3年となっている。そろそろ買い替え先のヘルメットの吟味をはじめても良い頃合いかもしれないと思い、最近の四輪ヘルメット事情を整理しつつ、カーボンヘルメットの必要性について考えていこうと思う。
この記事の目次(クリックでジャンプ)
- 結論|用途次第でアマチュアレーサーの武器に!
- ヘルメットの種類・ラインナップ
- └ カーボンヘルメット一覧
- └ 非カーボンヘルメット一覧
- カーボン製と非カーボン製の価格差が縮まってきた
- 安全性能|こだわるならFIA 8860-2018規格
- 軽量化|100g~190gも軽くなる
- 外観|カーボンの網目を見せて塗装レス化
- おすすめモデル紹介
- └ F1ドライバー御用達モデル|Bell HP7 EVO IV Carbon / Schuberth SF4
- └ コスパ最強のFIA 8860ヘルメット|Sparco Prime RF-10W Supercarbon
- └ コスパ&軽量モデル|Stilo ST5 FN Carbon
- └ コスパ&デザイン重視派|Sparco Sky RF-7W Carbon
- カーボンヘルメットをおすすめしたい人
- └ レーシングカートと四輪の両方に出場するレーサー
- └ 長時間をドライブする耐久レーサー
- 筆者はどうするのか?|現時点で購入候補にならない理由
- まとめ|カーボンヘルメットは「高額=不要」ではない!用途に応じて検討するべし!
結論|用途次第でアマチュアレーサーの武器に!

結論から言えば、カーボンヘルメットは「誰にでも必要」というものではない。しかし、用途によってはアマチュアレーサーにとって大きな武器になり得る装備なのは間違いない。非カーボンモデルに比べて価格は高いものの、軽量化による首や肩への負担軽減、長時間走行での集中力維持、そして所有欲を満たす外観デザインは唯一無二の魅力である。特にレーシングカートと四輪レースを兼ねて出場するドライバーや、長時間のドライブを行う耐久レースに挑むレーサーにとっては、検討すべき選択肢だろう。では具体的にどんなモデルがあり、どのような性能差があるのかを見ていこう。
ヘルメットの種類・ラインナップ
まずは代表的な四輪ヘルメットのラインナップから整理していく。カーボンモデルと非カーボンモデルをそれぞれ一覧表でまとめた。加えて楽天市場で購入できるものは商品リンクを付けてある。このリンクから商品が購入されると筆者にお小遣いが入る仕組みになってはいるが、ヘルメットは快適面でも安全面でもサイズ合わせが非常に重要であるため、実店舗で試着したうえで購入することを強く推奨する。
カーボンヘルメット一覧
メーカー | モデル | 対応規格 | 価格(目安) | 重量 | 楽天市場 リンク |
---|---|---|---|---|---|
Arai | GP-7 SRC ABP | FIA 8860-2018 ABP | 80.3万円 | 未公表 | ● |
Bell | HP7 EVO IV Carbon | FIA 8860-2018 | 74.8万円 | 1.29 kg(L) | ● |
Bell | RS7 Carbon | FIA 8859-2015 | 27.7万円 | 1.59 kg(L) | ● |
Stilo | ST5 FN Zero ABP | FIA 8860-2018 | 77万円 | 0.93 kg (S) / 1.23 kg (L) | ● |
Stilo | ST5 FN Carbon | FIA 8859-2015 | 35.2万円 | 1.35 kg (S) / 1.40 kg (L) | ● |
Schuberth | SF4 | FIA 8860-2018 | 85.8万円 | 1.26 kg (S) / 1.36kg (L) | ● |
Schuberth | SP1 Carbon | FIA 8859-2015 | 27.9万円 | 1.37 kg (S) / 1.40 kg (L) | ● |
Sparco | Prime RF-10W Supercarbon | FIA 8860-2018 | 36万円 | ~1.60 kg(L) | ● |
Sparco | Sky RF-7W Carbon | FIA 8859-2015 | 15.8万円 | ~1.59 kg(L) | ● |
非カーボンヘルメット一覧
メーカー | モデル | 対応規格 | 価格(目安) | 重量 | 楽天市場 リンク |
---|---|---|---|---|---|
Arai | GP-6 | FIA 8859-2015 | 11.4万円 | 未公表 | ● |
Arai | GP-6S | FIA 8859-2015 | 6.6万円 | 未公表 | ● |
Bell | RS7 Pro (Composite) | FIA 8859-2015 | 14.3万円 | 未公表 | ● |
Bell | GT6 Pro (Composite) | FIA 8859-2015/2024 | 12.9万円 | 未公表 | ● |
Bell | GP3 Sport (Fiberglass) | FIA 8859-2015 | 11.6万円 | 未公表 | ● |
Stilo | ST5 FN Composite | FIA 8859-2015 | 18.9万円 | 1.45 kg (S) / 1.59 kg (L) | ● |
Sparco | Air Pro RF-5W | FIA 8859-2015 | 10.8万円 | ~1.80 kg(L) | ● |
こうして一覧表にまとめると、日本で買える海外製の四輪ヘルメットが増えたことを再確認させられる。10年ほど前はアライ製のヘルメットがほぼ一択だったことを考えると、選択肢が増えたことは非常に良いことだ。
カーボン製と非カーボン製の価格差が縮まってきた
カーボン製ヘルメットの最安価格はSparco(スパルコ)のSky RF-7W Carbonで約15.8万円だ。この金額を高いと感じるか安いと感じるかは価値観によって変わってくるところだとは思うが、私の感覚で言わせてもらうと決して安い金額ではない。
しかし、非カーボンヘルメットの価格相場が約12万円前後であることを考えると、プラス数万円でカーボン製のヘルメットが手に入るのであれば、検討する価値は十分にある。ではカーボン製のヘルメットにすることで得られる価値(性能)を考えていこう。
安全性能|こだわるならFIA 8860-2018規格
JAF公認のレース競技に出場する場合、FIA規格の公認を受けたヘルメットを使用することが義務付けられている。先に一覧で紹介したヘルメットはすべてFIA公認品となっているが、実はヘルメットのFIA規格は2つある。FIA 8859-2015 と FIA 8860-2018だ。この2つの規格の違いをまとめた表が下記の通りだ。
FIA規格比較表(8859 vs 8860)
項目 | FIA 8859-2015 | FIA 8860-2018 |
---|---|---|
位置づけ | 国際的に通用する標準規格(多くのカテゴリーで使用可) | 「スーパー規格」。F1などトップカテゴリで義務 |
衝撃吸収試験 | 高速・低速での落錘試験に合格すること | 8859より約30〜40%厳しい基準でテスト |
耐貫通試験 | 一定重量の鋭利なストライカでシェルが貫通しないこと | より強い衝撃での試験+バイザーフレーム周辺の耐貫通性も追加(ABP) |
耐火性能試験 | 約800℃で30秒間耐火 | 約800℃で90秒以上耐火 |
シェル素材 | FRP(グラスファイバー)、カーボン、複合材などOK | カーボン系が基本(FRP不可) |
価格帯 | 約10〜35万円 | 約36〜85万円 |
より高い安全性能を求めるならばFIA 8860-2018の認証を受けたヘルメットを選択する必要がある。一方でFIA 8859-2015の認証を受けたヘルメットは非カーボン製とカーボン製が混在しているが、どちらのヘルメットも安全性能は同じと扱われる。カーボン製のヘルメットだからといって無条件で安全性が向上するわけではないことには注意が必要だ。必ず適合している規格がどちらなのかを確認しよう。
軽量化|100g~190gも軽くなる
カーボン材の特徴のひとつとして軽さが挙げられる。もしヘルメットが軽くなれば、Gフォースを受けた時のドライバーの首への負担は軽減され、疲労し難くなり、集中力が増す。つまりヘルメットの軽量化はドライバーのパフォーマンスアップに貢献できるのだ。
さっそくカーボン製にすることでどれほどの軽量化を図れるのか確認していくのだが、ヘルメットの重量に関してはメーカーが公表していないモデルが多く、通販サイトから抜粋できた情報のみで考察していくため正確性に欠けるかもしれない事はご容赦頂きたい。
では全モデルで重量の記載のあったStilo(スティーロ)の重量差を確認する。
Stiloヘルメット重量比較
モデル | 対応規格 | 材料 | 重量 | 差 |
---|---|---|---|---|
ST5 FN Composite | FIA 8859-2015 | 複合材 | 1.59kg | 基点 |
ST5 FN Carbon | FIA 8859-2015 | カーボン | 1.40kg | -190g |
ST5 FN Zero ABP | FIA 8860-2018 ABP | カーボン | 1.23kg | -360g |
ラージサイズでの重量比較のため数値が大きめに出ているが、複合材をカーボン材に置き換えることで190gもの軽量化になっている。ヘルメットの表面積はどのメーカーも多少の違いはあれど大差は無いと思われるので、どのメーカーもカーボン化で100g~190gの軽量化は手堅そうだ。
ただし、ここでも注意が必要なのは、メーカーごとにも重量差があることだ。例えばBellやSparcoのFIA 8859-2015規格のカーボンヘルメットは1.59kgの重量があり、Stiloの非カーボンヘルメットと重量が変わらないことになる。メーカーを横断してヘルメットを買い替える時はメーカーごとの重量差も考慮して検討が必要だ。
外観|カーボンの網目を見せて塗装レス化

カーボンヘルメットは塗装をせずに使用している人が多い。これはカーボンの網目が見えるのがデザインとしてカッコいいとする文化があるからだ。
このカーボンの網目がカッコいいと言われる文化がどこから来ているかは不明確だが、私が知る限りはカーボンがF1で初めて採用された80年代のマクラーレンF1のモノコックや、フェラーリのF40の内装が網目がむき出しだったのが起源なのかもしれない。ちなみに筆者がはじめてカーボンむき出しのパーツがカッコいいという文化に触れたのは、頭文字Dのハチロクの黒ボンネットだったと思う。
このカーボンの網目がカッコいいとされる文化のおかげで、塗装なしでもカッコよくて所有欲を満たせるのがカーボンヘルメットの大きな利点だ。非カーボン製の白ヘルメットを塗装しようとすると、シンプルなデザインであっても5万円、複雑なデザインにすると10万円の塗装費用がかかってしまう。デザインを考える手間もかかるし、仕上がるまでに数日どころか数週間かかる場合もある。箱から取り出した状態でカッコいいのも、最近カーボンヘルメットを使う人が増えてきた理由なのかもしれない。
おすすめモデル紹介
以上がカーボンヘルメットを使う価値(性能)だ。では要求性能ごとにおすすめのヘルメットモデルを紹介する。
F1ドライバー御用達モデル|Bell HP7 EVO IV Carbon / Schuberth SF4
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安全性も軽量化も外観デザインも妥協したくない人は、Bell HP7 EVO IV CarbonもしくはSchuberth SF4がおすすめだ。両モデルは2025年のF1で使用しているドライバーが多いツートップだ。マクラーレンやフェラーリがBell(ベル)、レッドブルがSchuberth(シューベルト)を使用しているようだ。憧れのF1ドライバーと同じヘルメットとなれば、所有する満足度も別格だろう。高性能かつコレクターズアイテムとしての価値もあるとなれば、100万円という金額にも納得できるかもしれない。
コスパ最強のFIA 8860ヘルメット|Sparco Prime RF-10W Supercarbon
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とにかく最高の安全性能で自分の身を守りたい人にはSparco Prime RF-10W Supercarbonがおすすめだ。FIA 8860-2018規格に適合していながら、40万円以下という低価格を実現している。他のFIA 8860-2018モデルが80万円近いので約半額だ。このモデルの欠点を挙げるとすれば、他のFIA 8860-2018モデルと比べると重いことと、同モデルを使用しているF1ドライバーがいないことだ。ただし安全性能はFIA規格が証明しているので、他のモデルと同等と言って問題ないだろう。
コスパ&軽量モデル|Stilo ST5 FN Carbon
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とにかく軽いヘルメットで首への負担を軽減したい人にはStilo ST5 FN Carbonがおすすめだ。FIA 8859-2015規格のヘルメットの中では最軽量のモデルとなる。価格は約35万円。この記事内ではST5モデルを紹介したが、ST6という新モデルも発売されているので、あわせてチェックしてほしい。
コスパ&デザイン重視派|Sparco Sky RF-7W Carbon
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最後に、安全性や軽量化は度外視して、カーボンの外観を活かしたヘルメットが欲しいという人にはSparco Sky RF-7W Carbonがおすすめだ。約16万円という低価格のため、非カーボンヘルメット+塗装工賃よりも安価に収めることができる。ただし、このモデルはFIA 8859-2015規格のモデルであり、他モデルと比較して軽量ではないことは知っておいてほしい。
カーボンヘルメットをおすすめしたい人
ここまでカーボンヘルメットの価値(性能)とおすすめのモデルを紹介してきたが、あまりにも高額なのでアマチュアレーサーには関係のない製品と思ってはいないだろうか? 実は筆者的にはそうは思っていない。むしろアマチュアレーサーこそカーボンヘルメットを持つべきではないかとも思う。その理由を筆者がおすすめしたいジャンルのレーサーと共に紹介する。
レーシングカートと四輪の両方に出場するレーサー
最初におすすめしたいのは、レーシングカートと四輪の2つのレースカテゴリーに出場しているレーサーだ。レーシングカートはマシンとコースの特性上、身体にかかるGフォースが高く、さらに1周あたりのGフォースがかかっている時間が長い。これほど軽量なヘルメットが欲しくなるカテゴリーは他にはないだろう。それもレーシングカートだけに出場するならば、カート用やバイク用のヘルメットを使うことで軽量化は可能だ。しかし、四輪レースも同時に出場するとなるとFIA公認品である必要がある。2つのレースカテゴリーを1つのヘルメットでこなす最適解が、カーボンヘルメットになる可能性がある。
長時間をドライブする耐久レーサー
次におすすめしたいのが耐久レースに出場するレーサーだ。四輪のツーリングカーをドライブしたときに身体にかかるGフォースは、レーシングカートに比べれば軽いものだ。しかし、それが長時間の運転になると話は変わってくる。蓄積された疲労は徐々にドライバーの集中力を奪っていく。さらに耐久レースはさまざまな車種が混走で行われることが多い。速度差のある車種が入り乱れれば、それだけ接触のリスクも高くなる。集中力を維持するために、あるいはより高い安全性能を確保するために、軽量のカーボンヘルメットもしくはFIA 8860-2018のヘルメットを着用するのは賢い選択なのかもしれない。
筆者はどうするのか?|現時点で購入候補にならない理由
では筆者はカーボンヘルメットを買うのかというと・・・買うことはない。というか買えない。順番に理由を説明していく。
価格が高い|予算オーバー
ヘルメットの買い替えには塗装込みで20万円を予算として考えている。決して低い予算にしているわけではないのだけど、この予算内だと選べるモデルがSparco Sky RF-7W Carbonのみ。しかも今使っているGP-6と比較しても劇的に軽くなるわけでは無い。20万円以内で今使っているヘルメットよりも軽いモデルが登場しない限りはカーボンヘルメットが購入対象になることはないだろう。
FIA 8859-2015で必要十分
安全性能に関してはFIA 8860-2018が義務化されているレースに出場予定はない。というよりもFIA 8860-2018が義務化されているのは国内レースだとスーパーフォーミュラなどの一部のフォーミュラレースのみ。いま出場しているVITAレースならばFIA 8859-2015で不十分と感じる事はないので、安全性向上を目的に買い替えることはないだろう。
軽量化の恩恵が薄い

唯一心が揺らぐ可能性があるとすれば軽量化かもしれない。実は筆者自身は首の持久力が弱いという自覚がある。VITAの走行だと筑波サーキットを合計90分走ると首を支えるのがきつくなる。レーシングカートでも合計90分も走ると限界を向かえる(写真参照)。ただ幸いなことにVITAの場合、予選と決勝の合計走行時間は40分ほどなので、軽量化の必要性を感じるほどの負荷はかかっていない。もし耐久レースなどに出場することがあれば、軽量のカーボンヘルメットが欲しくなるかもしれないが、現状では必要に迫られてはいない。
真ん中のパーティングラインが許容できない


個人的にはカーボンの網目がカッコイイとされる文化にも異議を唱えたいところではあるけど、百歩譲ってカッコ良いとしたとしてもカーボンヘルメットに対して許せないところがある。それはヘルメットの丁度中心でカーボンの網目のパーティングラインが走っていること。製造上どうしてもパーティングが走ってしまう理由はわかるけれども、決してカッコ良くはない。しかも綺麗に真っすぐラインが走っているなら許せるが、微妙に波打っているときた。この見た目ならカーボンヘルメットだったとしても、筆者は塗装して隠したいというのが本音だ
改めて感じるArai GP-6Sのコスパの高さ
今回カーボンヘルメットを含めた四輪ヘルメットの主要ラインアップを調べて改めて感じたのは、AraiのGP-6Sのコスパの高さ。冒頭の一覧表でも非カーボンヘルメットの中で6.6万円がひと際輝いて見える。現状は下手にカーボンヘルメットを買うよりはGP-6Sを購入して9万円で塗装したほうが満足度は高いだろうなと思う。
まとめ|カーボンヘルメットは「高額=不要」ではない!用途に応じて検討するべし!
カーボンヘルメットは高額であるがゆえに、アマチュアレーサーには「自分には不要」と思われがちだ。しかし実際には、疲労軽減や安全性能、そして所有欲を満たすデザイン性など、確かな価値を持っている。とくに複数カテゴリーに出場するドライバーや耐久レースに挑むレーサーにとっては、投資に見合う効果が得られるだろう。一方で、価格や見た目の好みなど、選択をためらう理由があるのも事実だ。最終的には予算や出場する競技カテゴリー、自分が重視する性能を天秤にかけて選ぶことになる。カーボンヘルメットは単なる高級品ではなく、モータースポーツをより快適に、より安全に、そしてパフォーマンス向上のための武器になるかもしれない。
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