先日、大幅な改良版として登場したトヨタの新型アクアが注目を集めている。プリウスから採用されたハンマーヘッドデザインも話題だが、クルマ好きの間で議論を呼んでいるのは「カックンブレーキ」を抑制する新機能「スムーズストップ」である。
この手の自動制御機能は、昔からクルマ好きにとって評判が良くない。ABS、トラクションコントロール、自動ブレーキ、自動駐車――いずれも「クルマを操る楽しみを機械に奪われる」と感じる人は少なくないだろう。だが今回のスムーズストップについて、筆者はこれまで以上に強い危機感を抱いている。その理由と、クルマ好きが今後どう向き合うべきかを掘り下げたい。
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結論|アクアのスムーズストップは人間の運転技術を超える可能性がある
スムーズストップは単なる快適装備ではない。人間が練習を重ねて磨いてきたブレーキ操作や姿勢コントロールを、電子制御によって凌駕しかねない性能を秘めている。特に街中の低速域で見せる滑らかな減速・停止挙動は、人間の技術では再現しづらい領域に到達しつつあるだろう。つまり「運転の上手さ」という価値の一部が、確実に機械へと置き換わり始めている。
新型アクアのスムーズストップとは?

トヨタ アクアのスムーズストップは、減速開始時の前のめり感や停車直後の揺り戻しを抑えるブレーキ制御機能である。
ハイブリッド車は減速時に回生ブレーキで発電するが、速度が下がると油圧ブレーキに切り替わる。この切り替えや踏力の変化が急だと、車体が揺れて不快感が生じる。スムーズストップはドライバーの操作や車速を検知し、回生と油圧の協調を電子制御で最適化することで車体姿勢を安定させる。その結果、発進から停止までの挙動はきわめて滑らかになり、乗員に心地よい移動体験をもたらす。
筆者の推測では、ノーズダイブ(リアのリフトアップ)を抑えるため、後輪側の制動力を積極的に活用している可能性が高い。
サーキット走行におけるピッチコントロールの例
リアのリフトアップを抑えるために後輪側の制動力を高めるテクニックは、サーキットでも用いられる。後輪駆動車に限定されるが、シフトダウン時のエンジンブレーキを活かして後輪の制動を強め、車両の姿勢を安定させる方法だ。
特に筑波サーキットの1コーナーのように、高速からのフルブレーキで2段以上シフトダウンを行う場面では効果が大きい。ただしこれは高速域での話であり、街中の低速域で同様のことを人間の技術で行うのは非常に難しい。それを回生ブレーキと電子制御で実現してしまうスムーズストップは、驚嘆すべき技術といえる。
EV(HEV含む)化によって加速する姿勢制御の時代
クルマの姿勢制御を電子的に行う流れは、EV・HEVの普及が大きく後押ししている。従来のICE車では、姿勢制御のために専用のコンピューターや複数のセンサー、アクチュエーターを追加する必要があった。
一方EVでは、アクチュエーターの役割をモーターが担い、制御用コンピューターも標準で搭載済み。必要な追加はセンサー程度で済むため、コストを抑えつつ高度な制御を実装できる。最廉価クラスであるアクアにまでスムーズストップが搭載された事実は、この流れが今後さらに加速することを示している。
機械は人間よりもスムーズに止まれるのか?
アクアに搭載されたスムーズストップの実力はどの程度か。先行してアルファード/ヴェルファイアPHEVにも導入されているが、レビュー記事を探しても詳しい言及は少ない。大した機能ではないのか、あるいは地味すぎて注目されていないのか。
しかし筆者は楽観視していない。過去に自動制御の性能に唸らされた経験が二度あるからだ。現時点では人間でもカバーできるレベルかもしれないが、その差は確実に縮まっている。
ECOモードに驚かされた加速の滑らかさ
筆者が最初に自動制御の凄みを感じたのは、ECOモードを搭載したクルマに同乗したときだった。
アクセルを踏み込んでも加速しないと不評なECOモードだが、助手席から体感すると全く違った印象になる。エンジンパワーの美味しい領域を巧みに使い、急激すぎない一定の加速で淀みなく速度を伸ばしていく。筆者はそれをECOモードとは知らずに「こんな緻密なアクセルワークをする人がいるのか」と衝撃を受けた。
正体がECOモードだと知ったのは1年以上経ってからだが、それまでの期間に筆者はスムーズなアクセルワークを身につけようと必死に練習した。その成果で、今ではサーキットの高速コーナーでも自信を持って繊細なアクセル操作ができるようになった。ECOモードの存在は確かに筆者を成長させた。
ノート e-POWER・e-4ORCEの姿勢制御に感じた衝撃
最近、実家のノート e-POWER(e-4ORCE)に乗ってさらに驚かされた。
アクセルを踏んでもノーズリフトはほとんど起きず、ブレーキを踏んでもノーズダイブが少ない。ドライバーの感覚的には少々不自然に感じるが、助手席からの快適さは圧倒的に向上していた。アクアのスムーズストップ同様、加減速の両面で姿勢を制御していると考えられるが、これを人間の運転技術で再現する方法を筆者は日々考えているが、今のところ答えは出ていない。
多くのドライバーはスムーズストップに勝てない?
筆者の経験からも、ピッチング制御技術はすでに人間の運転技術では再現が難しいレベルに到達しつつある。ノートe-POWER・e-4ORCEの挙動を見れば明らかだ。必死に練習して腕を磨いたとしても、アクアやノートで「テキトーに」加減速したときの快適さに勝てない時代が目前に迫っている。
これは恐ろしい現実だ。多くのドライバーは、電子制御の乗り心地に太刀打ちできなくなるだろう。しかし筆者は「負けたくない」という気持ちを強く持っている。ECOモードで学んだように、機械に負けない運転技術を身につけたいのだ。
まとめ|クルマ好きはスムーズストップに負けない運転技術を磨こう
新型アクアのスムーズストップは、乗員に快適さをもたらすと同時に、クルマ好きにとっては強烈な危機感を抱かせる存在である。努力して積み上げてきた運転技術が、電子制御にあっさり追い抜かれる現実があるからだ。
だがそれは同時に、挑戦する価値のある目標でもある。ECOモードやe-4ORCEの制御に触れたときの驚きを糧に、機械に負けない運転技術を追い求めること。これは紛れもなくドライビングの本当の楽しみにつながるはずだ。
どれほど高度な制御が普及しても、ハンドルを握る楽しさと、運転技術を磨き続ける喜びは失われない。クルマ好きにできることは、時代の変化を真摯に受け止めつつ、自らの運転技術を磨き続けることに尽きる。
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