データロガーを導入すれば、自分の走りを客観的に分析できて、効率よく速くなれる。
そう考えて導入する人は多い。
しかし実際には、
「ちゃんとデータを見ているはずなのに、あまり変わらない」
「むしろ何が正解か分からなくなった」
そんな違和感を覚えるケースも少なくない。
それは、データロガーの性能が低いからでも、使っている人のセンスが足りないからでもない。
多くの場合、データロガーとの向き合い方に“陥りやすい落とし穴”がある。
本記事では、データロガー活用で多くの人が無意識にハマってしまう思考パターンを、誰もが自然に通りやすい落とし穴として整理する。
すでにデータロガーを持っている人にも、これから導入を検討している人にも、「なぜうまくいかないのか」を冷静に見直すヒントになるはずだ。

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目次(クリックでジャンプ)
本記事で扱う「落とし穴」の考え方
本記事で扱う「落とし穴」は、やってはいけない行為や、失敗例を断罪するものではない。
データロガーを使い始めた人の多くが、ごく自然な流れで通りやすい思考パターンを指している。
たとえば、真面目にデータを見ようとするほど、数字の違いが気になり、「どこが悪かったのか」を探したくなる。
また、速いドライバーのデータを見て、「ここが正解なのだろう」と考えるのも、決して間違った姿勢ではない。
問題になるのは、それらの考え方に気づかないまま、同じ向き合い方を続けてしまうことだ。
データロガーは情報量が多い道具である分、考え方の軸が定まっていないと、いつの間にか視野が狭くなりやすい。
本記事で整理する「落とし穴」は、誰かを否定するための指摘ではなく、自分の思考を点検するためのチェックポイントである。
もし当てはまるものがあったとしても、それは失敗ではない。
気づけた時点で、すでに修正は始まっている。
次章から紹介する落とし穴は、データロガーを真剣に使おうとする人ほど陥りやすいものばかりだ。「自分にも心当たりがあるかもしれない」そのくらいの気持ちで読み進めてほしい。
なぜ落とし穴を知る必要があるのか
データロガーは、走りを数値として可視化できる、非常に便利な道具である。
しかしその一方で、扱える情報量が多いからこそ、向き合い方を誤ると、成長を止めてしまう側面も持っている。
たとえば、ラップタイム、ブレーキポイント、スロットル操作。
データロガーは多くの数値を示してくれるが、それらはすべて「結果」であって、その背景にある理由までは教えてくれない。
理由を考えずに数値だけを追いかけると、
- どこが悪かったのか
- 何を直せばいいのか
という視点に偏りやすくなる。
その状態が続くと、走りの中で試行錯誤する余地が減り、選択肢が少しずつ削られていく。
これは、データロガーを真面目に使おうとする人ほど陥りやすい。
だからこそ、
「正しい使い方」を学ぶ前に、
「間違ったハマり方」を知っておくことが重要になる。
落とし穴を知っていれば、データを見るときに一歩引いて考えられる。
「今の自分は、データをどう使おうとしているのか」
その問いを持てるだけで、データロガーは“評価の道具”ではなく、“考えるための材料”に変わっていく。
次章からは、多くの人が無意識に陥りやすい落とし穴を、具体的に見ていく。
どれも特別な失敗ではない。
むしろ、真剣に向き合っているからこそ通りやすいポイントだ。
落とし穴①|粗探しで終わってしまう
データロガーを使い始めると、まず気になるのは「どこが悪かったのか」だろう。
ブレーキが遅れている。
立ち上がりのアクセルが開いていない。
ラインがズレている。
データは、そうした違いをはっきりと示してくれる。
ここで注意したいのは、
「違いを見つけること」と「改善につなげること」は別だ
という点である。
よくあるのが、クルマの状態やドライバーの操作について
「ここがダメだった」と洗い出して終わってしまうパターンだ。
たとえば、
「ブレーキが遅れている」と分かったとしても、
それだけでは次に何を試せばいいのかは見えてこない。
- 進入速度が高すぎたのか
- ブレーキポイントを意識しすぎたのか
- タイヤや路面状況の影響なのか
原因はいくつも考えられる。
しかし、粗探しに意識が向きすぎると、「悪い点を見つけた」という事実だけで満足してしまい、そこから先の思考が止まりやすい。
また、ドライバーの操作だけでなく、クルマのセッティングやコンディションについても
同じことが起きる。
「このクルマは曲がらない」
「ブレーキが弱い」
そうした評価を下した時点で、改善のための試行錯誤が終わってしまうこともある。
本来、データロガーは粗を探すための道具ではない。
次に何を試すか、選択肢を増やすための材料として使うことで、初めて意味を持つ。
粗探しに気づいたら、
「じゃあ次は何を試すか」
この一歩を意識するだけで、データの見え方は大きく変わってくる。
落とし穴②|改善策を1つに決めつけてしまう
データロガーを使っていると、「速い人の走り」がはっきりと見えてくる。
ブレーキの位置、アクセルの開け方、コーナーへの入り方。
自分との違いが数値として並ぶと、そこに“正解”があるように感じてしまう。
そして、
「この走りを真似すれば速くなれるはずだ」
と考える。
この発想自体は、決して間違っていない。
学ぶ姿勢としては、とても自然だ。
問題になるのは、その改善策を唯一の正解だと思い込んでしまうことである。
サーキットでタイムを出す方法は、ひとつではない。
ブレーキを奥まで引っ張る人もいれば、進入を抑えて立ち上がりを重視する人もいる。
車両特性や路面状況、ドライバーの感覚によっても、有効なアプローチは変わる。
それにもかかわらず、ひとつのデータだけを正解と決めてしまうと、走りの選択肢が急激に狭くなる。
「この通りに走れない自分はダメだ」
「このラインを取れないのはミスだ」
そうした考え方に陥ると、走りを試す余裕がなくなり、かえってタイムが安定しなくなることも多い。
データロガーは、答えを固定するための道具ではない。
複数の可能性を並べて考えるための材料として使うことで価値を発揮する。
速い人のデータは、「こういう走り方もある」という、ひとつの参考例に過ぎない。
それを出発点として、自分のクルマ、自分の感覚で、どこが試せそうかを考える。
その余白を残しておくことが、この落とし穴を避けるための第一歩になる。
落とし穴③|データを信じすぎてしまう
データロガーは、走りを客観的に見せてくれる道具だ。
感覚だけでは曖昧だった部分を、数値として示してくれる。
だからこそ、多くの人が「データは正しいもの」と考える。
しかし、ここにもひとつ注意点がある。
データロガーは万能な計測器ではない。
データロガーが示しているのは、あくまで“記録できた範囲の情報”に過ぎない。
たとえば、
- タイヤの微妙なグリップ感の変化
- わずかな路面のうねり
- 一瞬の迷いやためらい
そうしたものは、数字としては表れにくい。
それでも、走りに与える影響は決して小さくない。
データを信じすぎてしまうと、
「数値に出ていないから問題ない」
「データ上は良いはずだ」
と考えてしまいがちになる。
その結果、自分が感じた違和感や不安を、無意識に切り捨ててしまう。
また、数値がきれいに揃っていること自体が目的になってしまうケースもある。
「この区間は前回と同じだ」
「ここは数値が改善している」
そうした確認作業に意識が向きすぎると、走り全体の流れやリズムを見失ってしまうことがある。
データは、「事実の一部」を切り取ったものだ。
それ以上でも、それ以下でもない。
だからこそ、データを見るときは、
「これは何を測れていて、何を測れていないのか」
を意識する必要がある。
数値に表れない部分を補うために、ドライバーの感覚がある。
この2つを並べて考えることで、初めてデータは意味を持つ。
次の章では、この考え方の前提となる「感覚とデータの関係」について整理していく。
大前提|ドライバーの感覚とデータは対立しない
データロガーを使っていると、いつの間にか「感覚」と「データ」を別々のものとして考えてしまうことがある。
感覚は曖昧で信用できない。
データこそが客観的で正しい。
そう考えてしまうのも無理はない。
数値ははっきりと目に見えるからだ。
しかし、ドライバーの感覚とデータは、本来対立するものではない。
役割が違うだけで、どちらも必要な情報である。
ドライバーの感覚は、走っているその瞬間にしか得られない一次情報だ。
ブレーキの手応え、
タイヤが路面をつかむ感触、
クルマの動きに対する違和感。
これらは、走行中の判断に直結する重要な要素であり、データでは完全に再現できない。
一方で、データは感覚を後から振り返るための材料になる。
「あのとき、なぜ違和感があったのか」
「感覚的にうまくいかなかった部分は数値上どうなっていたのか」
そうした問いに対して、感覚だけでは曖昧だった部分を補足してくれる。
どちらか一方だけに頼ると、見落としが増える。
感覚だけに頼れば、思い込みや記憶違いが混ざりやすい。
データだけに頼れば、数字に表れない要素を切り捨ててしまう。
だからこそ、感覚とデータは並べて見ることが大切になる。
感覚で気づき、データで確かめる。
データで疑問を持ち、次の走行で感覚を確かめる。
この往復ができるようになると、データロガーは「正解を探す道具」ではなく、「走りを考えるための相棒」に変わっていく。
落とし穴を避けるために意識したい、たった1つの視点
ここまで見てきた落とし穴には、実は共通点がある。
それは、データに「答え」を求めすぎてしまうことだ。
データロガーは、「この走りが正解だ」と教えてくれる道具ではない。
数値を見れば、違いや傾向は分かる。
しかし、その理由や背景までは、自分で考える必要がある。
落とし穴を避けるために意識したいのは、データロガーを答えを出す道具ではなく、選択肢を増やす道具として使うという視点だ。
「ブレーキが遅れている」というデータがあったとき、それは「ここがダメだ」という評価ではない。
- もう少し早めてもいいのか
- 逆に、奥まで使い切ったほうが合うのか
- 進入速度自体を変えるべきなのか
複数の可能性を並べるための材料にする。
速い人のデータを見たときも同じだ。
「この通りに走れない自分は間違っている」ではなく「こういう選択肢もあるのか」と受け取る。
そう考えられるようになると、データを見る時間は自分を評価する時間ではなく、
次に何を試すかを考える時間に変わる。
完璧な答えを見つけようとしなくていい。
小さな仮説を立てて、一つずつ試していく。
この姿勢を持てるだけで、データロガーは落とし穴だらけの難しい道具ではなく、成長を支えてくれる道具になる。
データロガーが「意味のある道具」になる人の共通点
データロガーをうまく使えている人には、特別な才能があるわけではない。
解析が得意だったり、理論に強かったりすることが必須条件というわけでもない。
共通しているのは、データとの距離感だ。
まずひとつ目は、すぐに完璧を求めないこと。
一度の走行で「これで正解が分かった」と思おうとしない。
データはあくまで途中経過だと理解している。
次に、小さな仮説を1つずつ試すこと。
大きく走りを変えようとせず、「今回はここだけ意識してみよう」とテーマを絞る。
その結果を、次のデータで確認する。
この積み重ねを、淡々と続けている。
さらに、データを評価ではなく材料として扱う。
タイムが良かった、悪かった、という結論だけで終わらせず、「なぜそうなったのか」を考える。
データは、自分をジャッジするためのものではなく、考えるためのヒントだと捉えている。
そして最後に、感覚と数値のズレを楽しめること。
「感覚では良かったのに、数値はそうでもない」
「数字は良いのに、走りづらかった」
こうしたズレを失敗や矛盾として切り捨てず、面白い材料として受け止める。
この姿勢があると、データロガーはプレッシャーをかける存在ではなく、走りを深める相棒になる。
特別なスキルは必要ない。
考え方を少し変えるだけで、データロガーは「難しい道具」から「意味のある道具」へと変わっていく。
「自分にはまだ早い」と感じたときの考え方
ここまで読んで、「今の自分には、まだデータロガーは早いかもしれない」そう感じた人もいるかもしれない。
だが、その感覚は間違いではない。
むしろ、自分の状況を冷静に見られている証拠だ。
データロガーは、走りを深く考えるための道具であって、走行量や経験の代わりになるものではない。
- まずは走る回数を増やしたい
- クルマの挙動に慣れたい
- 走行ラインや基本操作を体に覚えさせたい
そう感じている段階なら、無理にデータロガーを導入する必要はない。
この判断は、「諦め」ではなく「順番」の問題だ。
走行経験を積み、「なぜこうなったのだろう」と考える場面が増えてきたとき、データロガーは自然と必要になる。
また、一度導入を見送ったからといって、チャンスを逃すわけでもない。
データロガーは、いつでも導入できる道具だ。
必要になったときに、改めて向き合えばいい。
「まだ早い」と感じられる人ほど、実際に使い始めたとき、データロガーを冷静に扱えることが多い。
今は走ることに集中する。
その選択も、間違いなく正しい。
関連記事・次に読むべき記事
データロガーとの向き合い方は、使い方そのものよりも、「どの段階で、何を求めるか」によって変わってくる。
本記事で扱った落とし穴は、データロガーを使い始めた人だけでなく、導入を検討している段階の人にも関係するものだ。
ここから先は、自分の状況に応じて、必要な視点を補っていくとよい。
データロガーは買うべき?向いている人・向かない人
データロガーが、どんな人に向いていて、どんな人は今は無理に導入しなくていいのかを整理した記事。
「自分は使いこなせる側なのか」
「今はまだ早いのか」
判断に迷っている場合は、まずこちらを読んでほしい。
データロガーの仕組みと、できること・できないこと
データロガーが何を測れていて、何を測れていないのかを整理した基礎解説。
数値をどう解釈すべきか分からなくなったときや、データを信じすぎてしまいそうなときに、立ち返るための記事として役立つ。
初心者向け|データロガーのログをどう見るか(予定)
「何から見ればいいのか分からない」
「項目が多すぎて混乱する」
と感じている人向けに、最低限押さえておきたい見方を整理する予定だ。
無理にすべてを理解しようとしなくていい。
今の自分に必要なところから、少しずつ読み進めてもらえれば十分だ。
まとめ|落とし穴を知っていれば、データロガーは怖くない
データロガーは、使えば自動的に速くしてくれる道具ではない。
一方で、正しく向き合えば、走りを深く考えるための強力な材料にもなる。
本記事で整理してきた落とし穴は、特別な失敗ではない。
むしろ、真面目にデータと向き合おうとする人ほど自然に通りやすい思考パターンだ。
- 粗探しで終わってしまう
- 改善策を1つに決めつけてしまう
- データを信じすぎてしまう
どれも、少し立ち止まって考え方を切り替えるだけで避けられるものばかりである。
大切なのは、データに「答え」を求めすぎないこと。
データロガーは、評価のための道具ではなく、選択肢を増やすための道具だ。
感覚とデータを並べて考え、小さな仮説を試し続ける。
その姿勢さえあれば、データロガーは難しい存在でも、怖い存在でもなくなる。
そして、「今はまだ早い」と感じたなら、無理に導入しなくていい。
必要になったときに、改めて向き合えば十分だ。
落とし穴を知っていること自体が、すでに大きな一歩である。
データロガーは、正しく恐れ、正しく距離を取れば、走りを支えてくれる相棒になってくれるはずだ。




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