モータースポーツにおける安全装備の中でも、近年とくに重要性が高まっているのが「HANS(ハンス)」である。クラッシュ時に大きな負荷がかかる首と頭部を保護するための装置であり、F1やWRCといったトップカテゴリーだけでなく、国内のアマチュア競技でも着用が一般化している。
この記事では、HANSの仕組みや構造、安全性が評価される理由、そして着用が求められる具体的な条件についてわかりやすく解説する。
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HANS(ハンス)とは?
HANSとは「Head and Neck Support(頭部・頸部保護装置)」の略称で、クラッシュ時に発生する前方への強い慣性によって首や頭部にかかる負荷を最小限に抑えるための安全装備である。
F1やWRCなど多くの国際格式レースではすでに着用が義務化されており、プロ・アマ問わず命を守るうえで欠かせない装備となっている。
HANSはヘルメットと肩ベルトを専用テザーで連結することで、衝突時に頭部だけが前へ大きく振られる動きを抑制する。これにより、むち打ちや頸椎損傷、致命的な頭部外傷のリスクを大きく低減できる。
HANSの構造と素材
HANS本体はU字型のカーボンパーツで構成されており、軽量かつ剛性が高い点が最大の特徴である。肩の上に乗せて使用するため、視界や操作性を損なわず、長時間の走行でもドライバーの負担になりにくい。
装着時は以下の流れで固定される。
- ヘルメットとHANSをテザーで接続
- その上から5点式または6点式シートベルトで身体を固定
こうした構造により、頭部の動きを適切に制限しながら、操作に必要な自由度は確保される設計となっている。
義務化された背景と実績
HANSの重要性が認識されるようになったのは、2000年代初頭に発生した重大事故がきっかけである。当時、クラッシュによる頸椎損傷・頭部外傷で命を落とすケースが相次ぎ、FIAは原因の多くがHANS未装着に起因することを指摘した。
その対策として、2003年からF1を皮切りに主要国際競技でHANSの着用が義務化。国内でも同様にJAFがHANSの使用を強く推奨し、現在ではFIA公認モデルの着用がレース出場条件となるケースが一般化している。
実際にHANSが導入されてからは、頸部損傷や死亡事故が大幅に減少しており、HANSが命を救う装備であることが明確に示されている。
具体的な規則と着用条件
HANSの着用はFIA基準8858に基づいて規定され、国際レースおよび多くの国内競技で以下の条件が求められる。
主な着用条件
- FIA公認のヘルメット(FIA 8860、8858、8859)との組み合わせが必須
- FIAテクニカルリストNo.29に掲載されたテザーシステムを使用すること
- 装着時、パッドの厚さは15mm以下、耐火素材で覆われていること
- HANS本体の角度は水平から60°を超えてはならない
- シートベルトは5点式以上のものが必要である
安全性を確保するため、これらの基準に従った正しい装着が求められる。
アマチュアレースでも広がるHANSの普及
HANSはかつてプロドライバー向けの高価な装備というイメージが強かったが、現在では草レース、ジムカーナ、ダートトライアルなどでも着用が推奨されている。
特にスピード域の高い競技に挑戦するなら、HANSの装着は自身の身を守る最優先事項だといえる。
まとめ|HANSはドライバーの命を守る必須装備
HANSは、クラッシュ時に最も損傷しやすい首・頭部を確実に守るための重要な装備である。カーボン素材やFIA基準による高い安全性が確立されており、多くの事故から命を救ってきた実績もある。
これからモータースポーツに挑戦する人は、必ずHANSの導入を検討してほしい。



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